需給管理の現場では、膨大なデータを人手で集計・転記する工程が依然として残っています。手作業はヒューマンエラーや入力遅延を招きやすく、電力や製造のように30分単位で需給を合わせる分野では、わずかなズレでもコスト増へと直結します。
さらに、担当者の経験や判断がブラックボックス化すると、異動や退職のたびに運用全体の安定性が損なわれる状態です。こうした課題を、DX(RPAとAI)でどのように解決していくか、導入ステップを交えてご説明します。
手作業のミスでは、コピー&ペーストで列がズレたまま確定してしまったり、関数が上書きされて合計値が狂ったり、といったトラブルは珍しくありません。入力エラー率が数%に達した事例も報告されており、確認や再作業が慢性的な残業を生んでいます。
次に遅延です。需給計画が30分後ろ倒しになるだけで、補正のために買い取る高額電力が増え、インバランス料金が大幅に膨らむケースがあります。業務が回らず夜間対応が常態化すれば、担当者の心理的負荷も高まります。
最後が属人化です。帳票マクロの作成者が異動すると誰も保守できず、改修が止まったテンプレートだけが残る、といった問題が発生します。ノウハウのブラックボックス化は引き継ぎを困難にし、組織のレジリエンスを低下させる要因となります。
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)は、Webポータルからのデータ取得やExcel計算、レポート配信といった定型作業をロボットが代行する仕組みです。ある企業事例では、24時間ごとに繰り返していた計画値ファイルの取得から集計までをRPAに置き換え、年間数千時間以上の工数を削減したと報告されています。
ロボットによって二重転記や関数破損などのヒューマンエラーが大幅に減少しています。また、動作ログが自動で残るため内部統制の負荷も軽くなります。時間短縮だけでなく、監査対応の効率化という副次効果も得られる点が魅力です。
AI需要予測は、過去の需要データと気温・イベント・価格などの外部要因を組み合わせてモデルを学習し、将来の需要量を推定します。時系列モデル(DeepARやLSTMなど)は季節性や突発的な変動を捉え、平均誤差を約30%削減した事例も報告されています。
予測精度が向上すれば調達数量や生産計画のブレが大幅に減少し、インバランス料金や過剰在庫に伴うコスト増を抑制可能です。モデルを定期的に再学習させることで、経験則に依存しない共通指標として組織全体で運用できるようになります。
AIが生成した予測値をトリガーに、RPAがCSVを自動生成して需給計画システムへアップロードし、異常値があればチャット通知で担当者へアラートを送る――この一連の流れを自動化すると、判断のタイムラグを大幅に削減できます。
一部企業では、予測モデルの更新を時間単位で行う運用を導入し、発注判断のタイムラグを縮小しています。モデル精度レポートも自動配信されるため、改善サイクルが高速化しました。RPAの稼働ログとAIの誤差メトリクスを突き合わせることでボトルネックが明確になり、再学習の優先順位付けが容易になる効果も得られています。
用いるデータソースを棚卸しし、インバランス料金や作業時間といったKPIを設定します。
小規模領域でRPAボットと予測モデルの効果を定量評価します。
本番システムへ組み込み、フローと役割を標準化したうえで操作マニュアルを整備し、担当者教育を行います。
RPAの稼働ログとAIの誤差をダッシュボードで常時監視し、閾値を超えたら通知、原因分析、再学習というPDCAを回すことで精度と効率を継続的に向上させます。
DXによる自動化と予測精度の向上は、手作業起因のコスト増と属人リスクを同時に緩和します。まずは限定業務でPoCを実施し、得られた効果を数値で示してから段階的に展開するスモールスタートが、無理なく成果を積み重ねる近道といえるでしょう。
電力需要予測システムは、さまざまな場面で活用されるものです。ここでは「小売電気事業者向け」「工場向け」「スマートハウス・スマートビル向け」と業種ごとにおすすめの電力需要予測システムを紹介しています。
電力売買を効果的に行える
電力業務特化型の電力需要予測システム。自動で再学習を行うAIモデルの高精度な予測により、電力売買の効果的なタイミングが図れる。
インバランスコストを削減
短時間での予測が可能なため、一日前入札当日の新鮮なデータを反映させた高精度の予測実施。より正確な予測でインバランスコストを効果的に削減可能。
自動でピークカットを実施
工場向け電力需要予測システムZEBLAで、設備の電力消費データを監視・分析。電力使用の無駄や異常を検知し、自動でピークカットが行える。
生産計画に影響しない節電
電力不足時は重要度の低い機器を間引き、さらに不足すれば発電機を稼働するため、生産計画に影響することなく電力平準化を図ることが可能。
効率的な再エネの需給管理
全国の気象観測網を活用した電力需要・発電量予測を提供。太陽光・風力発電の変動を精度高く把握可能なため、再生可能エネルギーの需給管理を調整できる。
電力不足のリスクを低減
気象による予測誤差を抑えることで、スマートハウス・ビルにおける電力不足のリスクを低減。また、自家消費・売電など余剰電力を適切なタイミングで活用可能になる。