燃料価格の変動、再生可能エネルギーの拡大、卸電力市場価格の高騰リスクにより、電力小売事業者には従来以上に柔軟な料金設計が求められています。そこで注目されているのが、時間帯や需給状況に応じて電気料金を変える「ダイナミックプライシング」です。
ダイナミックプライシングは、単に電気料金を上下させる仕組みではありません。需要家の電力使用時間を変え、ピーク需要を抑え、再エネ余剰を活用し、小売事業者の調達リスクを抑えるための需給運用施策です。
電力分野におけるダイナミックプライシングとは、電力需要、供給力、再エネ発電量、卸電力市場価格などに応じて、電力量料金の単価を変動させる仕組みです。
たとえば、太陽光発電が多く市場価格が下がりやすい昼間は料金を安くし、需要が集中しやすい夕方から夜間は料金を高くすることで、需要家に電気を使う時間帯の変更を促します。
日本では、卸電力市場であるJEPXのスポット市場価格を参考にした「市場連動型料金」が代表例です。JEPXのスポット市場では、翌日に受け渡す電気が取引され、価格情報は30分コマ単位で公表されています。
| 料金タイプ | 特徴 | 向いている用途 |
|---|---|---|
| 時間帯別料金 | 昼・夜・ピーク時間帯など、あらかじめ単価を設定する | 家庭向け、理解しやすさを重視するプラン |
| 市場連動型料金 | JEPXなどの市場価格に応じて単価を変動させる | 調達コスト変動を料金に反映したい小売事業者 |
| 動的割引型 | 安い時間帯の利用に割引やポイントを付与する | EV充電、蓄電池、実証事業 |
| ハイブリッド型 | 固定料金と市場連動要素を組み合わせる | 価格変動リスクを抑えたい法人・家庭向け |
導入初期は、完全な市場連動型よりも、時間帯別料金や動的割引型から始めるほうが需要家に受け入れられやすいでしょう。
ダイナミックプライシングの大きな効果は、電力需要が集中する時間帯の使用量を減らせることです。需要が多く市場価格も高くなりやすい時間帯の料金を高めに設定すれば、需要家は使用を控えたり、別の時間帯へ移したりする動機を持ちます。
これにより、小売事業者は高価格時間帯の市場調達量を抑えられます。特に夏季夕方や冬季朝夕など、需給が引き締まりやすい時間帯では、需要シフトが調達コスト削減や粗利改善に直結する可能性があります。
太陽光発電が多いエリアでは、昼間に供給が増え、電力価格が下がりやすくなります。一方で、需要が不足すると再エネの出力制御が発生する場合があります。
昼間の料金を安く設定し、EV充電や蓄電池充電を昼間へ誘導できれば、再エネ余剰を需要側で吸収しやすくなります。資源エネルギー庁関連の実証でも、卸電力市場価格等に合わせて電動車の充電時間をシフトさせることで、再エネ活用や安定的な電力システム構築を検証しています。
ダイナミックプライシングは、すべての需要家に一斉導入するよりも、価格に反応しやすい用途から始めるのが現実的です。特に対象にしやすいのは、EV充電、蓄電池、給湯器、空調、工場設備の一部など、使用時間を調整できる負荷です。
導入時は、次の流れで進めると検証しやすくなります。
重要なのは、料金メニューだけを設計しないことです。料金、通知、自動制御、請求、顧客説明を一体で設計しなければ、期待した行動変容は起こりにくくなります。
需要家が毎日市場価格を確認し、自分で充電時間や機器の稼働時間を変えるのは負担です。そのため、EV充電や蓄電池では、自動制御との組み合わせが重要になります。
たとえば「翌朝7時までに80%充電」と設定すれば、システムが安い時間帯を選んで充電する仕組みにできます。需要家の手間を減らしながら需要シフトを実現できるため、継続的な効果を期待しやすくなります。
ダイナミックプライシングの成否は、電気料金の安さだけでは判断できません。需給計画部門では、次のようなKPIを設定し、導入前後で比較することが重要です。
平均使用量だけでは、収益効果は見えません。時間帯別の使用量と市場価格を掛け合わせ、どの時間帯の需要がどれだけ動いたかを確認する必要があります。
市場連動型料金では、市場価格が高騰したときに需要家の負担が大きくなる可能性があります。電気は生活インフラであり、価格が高いからといって簡単に使用を止められるものではありません。
そのため、価格上限、月額上限、事前通知、固定プランへの切り替え、オプトアウトなどの保護策が必要です。料金の透明性を高めなければ、「安いと思って契約したのに高くなった」という不満につながります。
安い時間帯を設定すると、需要が一斉にその時間へ移動し、新たなピークをつくる可能性があります。特にEV充電や給湯器などの負荷が同じ時間に集中すると、配電系統への負荷が高まることも考えられます。
そのため、単に安い時間帯を提示するだけでなく、制御タイミングを分散させる設計が重要です。
ダイナミックプライシングは、電力料金を需給や市場価格に応じて変える仕組みです。導入により、ピークカット、調達コストの抑制、再エネ余剰の活用、需要家行動の変化が期待できます。
一方で、料金の複雑化、価格高騰時の顧客負担、需要予測の難しさ、新たなピーク形成といったリスクもあります。
成功の鍵は、料金設計だけでなく、データ分析、顧客通知、自動制御、顧客保護策を一体で設計することです。需給計画部門が中心となり、まずはEV充電や蓄電池など柔軟性の高い負荷からPoCを行うことで、実装可能性と収益効果を検証しやすくなります。
電力需要予測システムは、さまざまな場面で活用されるものです。ここでは「小売電気事業者向け」「工場向け」「スマートハウス・スマートビル向け」と業種ごとにおすすめの電力需要予測システムを紹介しています。

電力売買を効果的に行える
電力業務特化型の電力需要予測システム。自動で再学習を行うAIモデルの高精度な予測により、電力売買の効果的なタイミングが図れる。
インバランスコストを削減
短時間での予測が可能なため、一日前入札当日の新鮮なデータを反映させた高精度の予測実施。より正確な予測でインバランスコストを効果的に削減可能。

自動でピークカットを実施
工場向け電力需要予測システムZEBLAで、設備の電力消費データを監視・分析。電力使用の無駄や異常を検知し、自動でピークカットが行える。
生産計画に影響しない節電
電力不足時は重要度の低い機器を間引き、さらに不足すれば発電機を稼働するため、生産計画に影響することなく電力平準化を図ることが可能。

効率的な再エネの需給管理
全国の気象観測網を活用した電力需要・発電量予測を提供。太陽光・風力発電の変動を精度高く把握可能なため、再生可能エネルギーの需給管理を調整できる。
電力不足のリスクを低減
気象による予測誤差を抑えることで、スマートハウス・ビルにおける電力不足のリスクを低減。また、自家消費・売電など余剰電力を適切なタイミングで活用可能になる。