電力の安定供給や市場取引において、需要予測の精度向上は重要な課題です。近年では従来の統計手法に加え、AI(ディープラーニング)を用いた予測手法が主流となりつつあります。
ここでは、代表的な手法であるLSTM、GRU、Transformerについて、それぞれの仕組みや特徴、電力需要予測における選び方を解説します。
LSTM(Long Short-Term Memory)は、リカレントニューラルネットワーク(RNN)を拡張したモデルです。「セル」と呼ばれる記憶領域と、情報の取捨選択を行う3つのゲート(忘却・入力・出力)を持つ点が特徴です。
過去の重要な情報を長期間保持し、不要な情報を忘れる制御が可能となります。時系列データの文脈を学習する能力に長けています。
時系列データにおける長期的な依存関係の学習を得意としています。例えば、昨日の気温だけでなく、先週や季節ごとの電力使用傾向など、少し離れた過去の情報が現在の需要に影響する場合に有効です。
従来のRNNで問題となっていた、学習が進むにつれて勾配が消失し、過去の情報が失われる問題を軽減しており、長期の時系列データでも安定した学習が期待できます。
構造が複雑であるため、パラメータ数が多くなりがちです。そのため、学習に時間がかかる傾向があります。また、データを時系列順に一つずつ処理する必要があるため、計算の並列化が難しく、学習速度の向上に限界があります。
予測精度を出すためには、ある程度まとまった量の過去データが必要となるケースが多く、極端にデータが少ない場合は過学習のリスクがあります。
GRU(Gated Recurrent Unit)は、LSTMを簡略化したモデルです。LSTMにあった「記憶セル」を持たず、「リセットゲート」と「更新ゲート」の2つのゲートのみで情報の保持と忘却を制御します。LSTMと同様に長期的な依存関係を学習できますが、構造がシンプルであるため、計算量が少なく、パラメータ数も削減されています。
LSTMと同等の性能を維持しつつ、計算コストが低い点が強みです。学習時間が短く済むため、試行錯誤のサイクルを早く回したい場合に適しています。
パラメータ数が少ないため、比較的データ量が少ない場合でも過学習しにくく、安定した精度が出やすい傾向があります。リソースが限られた環境や、予測モデルの軽量化が求められる場面で特に有利です。
非常に複雑で長期的な依存関係を持つデータに対しては、表現力がLSTMに劣る場合があります。ゲート数が少ない分、情報の保持・忘却の制御がLSTMほどきめ細かくできないためです。
ただし、電力需要予測の実務においてはLSTMと遜色ない結果を出すことも多く、大規模な言語モデルなどで顕著になる差が、需要予測では表面化しないこともあります。
Transformerは、RNNやLSTMのようにデータを順番に処理するのではなく、「Attention(注意)機構」を用いてデータ全体を一括して処理します。データ内のどの部分が重要かを相互に関連付けながら学習するため、離れた位置にあるデータ同士の関係性も直接捉えることができます。自然言語処理で画期的な成果を上げ、時系列予測にも応用されています。
データの並列処理が可能なため、大量のデータを高速に学習できます。また、Attention機構により、非常に長い過去のデータや、複雑な相関関係を持つ気温・湿度・イベント情報といった多変量データの影響を効率的に捉えることが可能です。
データの系列が長くなっても情報の損失が少なく、大規模なデータセットがある場合に高い精度を発揮します。
メモリ消費量が大きく、計算リソースを大量に必要とします。データの系列長に対して計算量が二乗で増加するため、極端に長い入力データを扱う場合は工夫が必要です。
モデルの規模が大きいため、学習データの量が少ないと性能を発揮しきれない場合や、過学習を起こす可能性があります。導入には十分なデータ基盤と計算環境が求められます。
| 項目 | LSTM | GRU | Transformer |
|---|---|---|---|
| 必要データ量の傾向 | 中程度 | 小〜中程度 | 大きいほど有利 |
| 学習時間の傾向 | 長い (直列処理) |
短い (直列処理・計算少) |
短い (並列処理・要計算資源) |
| 推論速度の傾向 | 遅め | 普通 | 速い (並列化可能) |
| 長期依存の扱い | 得意 | 得意 (LSTMよりやや劣る場合あり) |
非常に得意 |
| 長い入力への強さ | 長すぎると精度低下の懸念 | 長すぎると精度低下の懸念 | 強い (計算コストは増大) |
| 欠損・外れ値への注意 | 前処理で補完・除去が必須 | 前処理で補完・除去が必須 | マスク処理等で対応可能な場合もあるが、前処理推奨 |
| 電力需要予測への適用例 | 翌日24時間の需要予測 | 1時間先の直近予測、小規模エリア | 週間・月間の長期予測、気象・経済指標を含む予測 |
予測モデル構築の初期段階や、利用できる過去データが数ヶ月分しかない場合は、GRUまたはLSTMから始めるのが一般的です。特にGRUは計算コストが低く、少ないデータでも学習が収束しやすいため、ベースラインモデルとして適しています。まずはシンプルなモデルで予測の傾向を掴むことが推奨されます。
翌日の需要予測など、気象条件や曜日特性が強く影響する短期〜中期の予測には、LSTMやGRUが堅実な選択肢です。これらは時系列データの周期性やトレンドを捉える能力が確立されており、多くの電力需要予測システムで採用実績があります。パラメータ調整のノウハウも豊富で、安定した運用が見込めます。
数年分の蓄積データがあり、かつ複数の気象要素や経済指標など多くの変数を考慮したい場合、あるいは週間・月間といった長期の予測を行いたい場合は、Transformerの検討が有効です。複雑な相互作用を捉える能力が高く、データ量が増えるほど精度向上が期待できます。ただし、計算資源の確保が必要です。
電力需要予測システムは、さまざまな場面で活用されるものです。ここでは「小売電気事業者向け」「工場向け」「スマートハウス・スマートビル向け」と業種ごとにおすすめの電力需要予測システムを紹介しています。

電力売買を効果的に行える
電力業務特化型の電力需要予測システム。自動で再学習を行うAIモデルの高精度な予測により、電力売買の効果的なタイミングが図れる。
インバランスコストを削減
短時間での予測が可能なため、一日前入札当日の新鮮なデータを反映させた高精度の予測実施。より正確な予測でインバランスコストを効果的に削減可能。

自動でピークカットを実施
工場向け電力需要予測システムZEBLAで、設備の電力消費データを監視・分析。電力使用の無駄や異常を検知し、自動でピークカットが行える。
生産計画に影響しない節電
電力不足時は重要度の低い機器を間引き、さらに不足すれば発電機を稼働するため、生産計画に影響することなく電力平準化を図ることが可能。

効率的な再エネの需給管理
全国の気象観測網を活用した電力需要・発電量予測を提供。太陽光・風力発電の変動を精度高く把握可能なため、再生可能エネルギーの需給管理を調整できる。
電力不足のリスクを低減
気象による予測誤差を抑えることで、スマートハウス・ビルにおける電力不足のリスクを低減。また、自家消費・売電など余剰電力を適切なタイミングで活用可能になる。