これまで需給調整市場に参加できるのは、高圧・特別高圧で受電する大規模な設備に限られていました。家庭用蓄電池やEV、小規模な事業所の空調や給湯器といった低圧のリソースは、容量の小ささと計測の難しさから、制度の外に置かれてきたのが実情です。
その前提が2026年度に変わりました。低圧リソースが需給調整市場の商品に参入できるようになり、機器単位で調整力を計測する「機器個別計測」もあわせて導入されています。
この記事では、解禁によって何がどこまで変わったのかを制度資料にもとづいて整理したうえで、低圧VPPを実際に立ち上げる手順と、需給管理の実務に生じる影響を解説します。
需給調整市場は、一般送配電事業者が周波数や需給のバランスを保つための調整力を調達する市場です。一次調整力から三次②調整力まで商品が区分され、応動時間や継続時間などの要件が商品ごとに定められています。
電力広域的運営推進機関の需給調整市場検討小委員会は、受電点で計測する低圧リソースについて、2026年度から全商品にリスト・パターンでの市場参入を認めることを整理しました。従来は高圧・特別高圧の設備に事実上限定されていた参入資格が、低圧まで広がったことになります。
この見直しの背景には、変動性再生可能エネルギーの拡大にともなう調整力需要の増加と、市場の応札不足があります。資源エネルギー庁は2023年3月の段階で、分散型リソースを需給調整市場でさらに活用する方向性を示していました。
低圧リソースの参入とセットで導入されたのが、機器個別計測です。
従来の需給調整市場は、需要家の受電点での計測を前提としていました。この方式では、制御した蓄電池やEVがどれだけ応動したとしても、同じ受電点にある他の負荷が同時に変動すれば、供出した調整力が受電点の数値のなかに埋もれてしまいます。小規模なリソースほどこの影響を受けやすく、参入の障壁となっていました。
機器個別計測は、制御対象の機器そのものに計量器を設置し、機器点で入出力を把握する方式です。供出量をΔkW評価とkWh精算の双方で一致させられるため、実際に動かした分だけ対価を受け取れる仕組みが成立します。
適用時期は計測方式と電圧区分で分かれています。低圧の機器点は2026年度から参入可能とされましたが、一次調整力については2026年度は実施せず、データ連携の仕組みが整ってからの対応とされました。高圧の機器点(1,000kW未満)は2027年度からの適用が想定されています。
想定されるのは、家庭や小規模事業所に設置された以下のような設備です。
低圧リソースは1台あたりの容量が小さく、そのままでは市場の商品要件を満たせません。解禁を実務として成立させているのは、束ねて扱うための制度整備です。
群管理は、複数の低圧小規模リソースを1つのリソース群として登録し、まとめて市場に供出する方法です。1台ごとに登録・審査する運用では事務負荷が現実的でないため、群としての取り扱いが制度化されました。
1つのリスト・パターンに複数の群を登録することも認められており、受電点で計測する群と機器点で計測する群を分けて登録する運用が可能です。
登録可能なリソース数の上限は10万件、リスト・パターン数の上限は500件まで拡大されました。あわせて、一度の入札につきリスト・パターンの供出可能量の10%以内であれば、事前審査後のリソースの入替・追加が認められています。
低圧リソースは需要家の都合で稼働状況が日々変わるため、事前審査の内容を固定したままでは運用が成り立ちません。この10%の幅が、実務上の可動域になります。
低圧の発電リソースについては、1発電地点ごとに発電バランシンググループを構成する制約が廃止され、発電BG単位での計画提出ができるようになりました。多数の小規模発電を抱えるアグリゲーターにとって、計画提出の手間が大きく変わる変更です。
なお、計量面では2022年4月に施行された特定計量制度が前提になります。500kW未満の設備では特例計量器をkWh精算に活用でき、IoTルートを通じて計量データを収集する構成が想定されています。次世代スマートメーターの設置は、低圧向けが2025年度から、高圧以上が2026年度後半から順次進められる計画です。
低圧リソースの参入は、需給調整市場そのものの見直しと同じタイミングで始まりました。参入を検討するうえでは、市場側の変化もあわせて押さえておく必要があります。
2026年3月13日の取引(3月14日受渡分)以降、一次〜三次①の複合市場で前日取引が始まり、取引単位も従来の3時間から30分コマへと細分化されました。あわせて一次・二次①・複合商品の上限価格は19.51円/ΔkW・30分から15円/ΔkW・30分へ引き下げられ、さらに10円、7.21円/ΔkW・30分といった段階的な引き下げも検討されています。募集量についても、3σ相当量から1σ相当量まで削減する方向が示されました。
取引単位が30分コマになったことは、低圧リソースにとってはむしろ追い風です。短時間だけ供出できるリソースを活かしやすくなる一方で、コマごとの供出可否を見通す精度が求められるようになります。
2026年2月14日から4月10日の実績では、複合商品の応札量は前日取引化前の1.02億ΔkW・h/日から1.25億ΔkW・h/日に増えたものの、不足率は14.6%から17.8%へと悪化しました。一次調整力は不足率46.3%から36.3%へ改善したものの、依然として高い水準です。
応札不足が続いているということは、新規リソースにとっては入り込む余地が残されているということでもあります。低圧リソースの解禁は、この不足を埋める選択肢のひとつとして位置づけられています。
一方で、制度が開いたことと、すぐに収益が立つことは同じではありません。一般送配電事業者側のシステム対応や、次世代スマートメーターの設置はエリアごとに進捗が異なります。特別高圧の機器点の扱いや、機器点容量1,000kW以上の区分設定といった論点も、2026年度以降の検討課題として残されています。
ここからは、低圧リソースを需給調整市場に向けて立ち上げる際の進め方を整理します。
まず、自社または顧客が保有する低圧リソースを洗い出します。確認すべきは、設備の種類と定格出力、容量だけではありません。遠隔制御に対応しているか、通信手段が確保されているか、どの程度の頻度で制御に応じられるかまでを把握する必要があります。
家庭用蓄電池であれば、非常用として一定量を残す運用になっているか、EVであれば日中の在車率がどの程度かといった、需要家側の使い方も供出可能量を左右します。
低圧リソースを単体で市場に供出することはできません。商品ごとに定められた入札量の要件を満たすには、多数のリソースを束ねる必要があります。
選択肢は大きく2つです。既存のアグリゲーターに自社リソースを預ける形で参加するか、自らリソースアグリゲーター/アグリゲーションコーディネーターとして市場に参加するかです。前者は立ち上げが早く、後者は収益の取り分が大きくなります。自社で担う場合は、制御基盤と需給管理の体制をどこまで整えられるかが成否を分けます。
機器個別計測で参入する場合、特例計量器などを経由したIoTルートの構築が前提となります。計量データをどの経路で、どの粒度で収集するかを設計し、群管理の単位にあわせて集約できる状態にしておく必要があります。
不正防止の観点から、抜き打ち監査や単線結線図の提出、インバランス補正に必要な計画の事前確認といった手続きも整理されています。設備構成を説明できる資料を揃えておくことが、審査をスムーズに進める条件になります。
商品区分ごとに応動時間と継続時間の要件が異なります。一次調整力は応動時間10秒以内・継続時間5分以上、二次①調整力は応動時間5分以内・継続時間30分、三次①調整力は応動時間15分以内・継続時間30分といった具合です。
蓄電池やV2Hのように高速応動が可能なリソースと、給湯器や空調のように応動に時間を要するリソースでは、適した商品が異なります。保有するリソースの応動特性と、群としてまとめたときの供出可能量の安定性から、現実的に狙える商品を絞り込むのが出発点です。
低圧リソースの参入は、調整力の供出側だけでなく、小売電気事業者の需給管理にも影響します。
需給調整市場検討小委員会では、群内の全リソースを応動評価の対象とする現行の考え方を緩和すべきでない、と整理されています。供出していないリソースの変動が評価の外に置かれると、インバランスとして認識されない不適切な状態が生じるためです。
つまり、群に入れた以上は、制御していないリソースの挙動まで含めて評価されるということです。数万台規模を扱うのであれば、個々のリソースの振る舞いを事前に見通せていることが、そのまま応動の成否に直結します。
低圧リソースの多くは、小売電気事業者と需給契約を結んでいる需要家の設備です。アグリゲーターがそれらを制御すれば、小売側が提出した需要計画と実績のあいだにずれが生まれます。機器点配下に複数のリソースがある場合の計画提出方法や、潮流の向きが計画時と異なる場合のインバランス算定については、制度面での整理が続いています。
自社の需要家が低圧VPPに参加する可能性があるなら、制御が入ることを前提に需要予測と計画提出の運用を見直しておくほうが安全です。
低圧VPPの収益は、約定した量をどれだけ確実に供出できるかで決まります。供出可能量を過大に見積もれば応動に失敗し、過小に見積もれば収益機会を逃します。
この見積もりの土台になるのが、需要と発電の予測です。気象条件、曜日・カレンダー、需要家の属性といった要素から、翌日の各コマでどれだけの余力が生まれるかを算出する作業は、30分コマ単位の取引になったことでいっそう細かくなりました。AIを用いた需要予測システムは、こうした多変量の予測を自動で処理し、群単位での供出計画づくりを支える基盤として機能します。
システムを選ぶ際は、気象や地域特性といった外部データを柔軟に追加できるか、予測モデルを自動で再構築・評価できるか、導入後も運用しながら精度を高められる支援体制があるかを確認しておくと、低圧リソースが加わって予測の対象が広がったときにも対応しやすくなります。需要予測を土台に、需給計画や蓄電池運用の最適化まで一貫して扱えるかどうかも、将来的な拡張を見据えるうえで確認しておきたいポイントです。
2026年度、低圧リソースは需給調整市場への扉を手に入れました。受電点計測であれば全商品へ、機器個別計測であれば一次調整力を除く商品へ参入でき、群管理によって数万台規模のリソースを1つの調整力としてまとめられます。
ただし、制度が開いたこと自体は入口にすぎません。市場では前日取引化と上限価格の引き下げが同時に進み、取引単位は30分コマへと細かくなりました。群内の全リソースが応動評価の対象となる以上、約定量を確実に供出できるかどうかは、供出可能量をどれだけ正確に見積もれるかにかかっています。
まずは自社の低圧リソースを棚卸しし、どの商品区分であれば現実的に供出できるかを見極めるところから始めてみてください。そのうえで、群単位の供出計画と日々の需給管理を支える予測の土台を整えることが、解禁を収益につなげる確実な一歩になります。
電力需要予測システムは、さまざまな場面で活用されるものです。ここでは「小売電気事業者向け」「工場向け」「スマートハウス・スマートビル向け」と業種ごとにおすすめの電力需要予測システムを紹介しています。

電力売買を効果的に行える
電力業務特化型の電力需要予測システム。自動で再学習を行うAIモデルの高精度な予測により、電力売買の効果的なタイミングが図れる。
インバランスコストを削減
短時間での予測が可能なため、一日前入札当日の新鮮なデータを反映させた高精度の予測実施。より正確な予測でインバランスコストを効果的に削減可能。

自動でピークカットを実施
工場向け電力需要予測システムZEBLAで、設備の電力消費データを監視・分析。電力使用の無駄や異常を検知し、自動でピークカットが行える。
生産計画に影響しない節電
電力不足時は重要度の低い機器を間引き、さらに不足すれば発電機を稼働するため、生産計画に影響することなく電力平準化を図ることが可能。

効率的な再エネの需給管理
全国の気象観測網を活用した電力需要・発電量予測を提供。太陽光・風力発電の変動を精度高く把握可能なため、再生可能エネルギーの需給管理を調整できる。
電力不足のリスクを低減
気象による予測誤差を抑えることで、スマートハウス・ビルにおける電力不足のリスクを低減。また、自家消費・売電など余剰電力を適切なタイミングで活用可能になる。