「同時市場」という言葉を目にする機会が増えています。スポット市場と需給調整市場を一本化し、電力量と調整力をまとめて約定させる。そんな需給管理の前提が変わりうる制度改正であり、小売電気事業者・発電事業者の双方に関係します。
一方で、導入時期は2030年代前半が目標とされ、制度の詳細はまだ検討の途中です。「気にはなるが、今すぐ何をすればいいのか分からない」というのが、多くの現場の実感ではないでしょうか。
この記事では、同時市場とSCUC・SCEDの仕組みを整理したうえで、制度が固まりきっていない現時点でも着手できる準備を具体的に解説します。
同時市場とは、電力量(kWh)と調整力(ΔkW)を同時に約定させる市場のことです。現在は別々に運営されている卸電力市場と需給調整市場を統合し、一つのアルゴリズムで一括最適化することを目指しています。
いまの仕組みでは、発電事業者は自社の電源をスポット市場(JEPX)に出すのか、需給調整市場に出すのかを自ら判断し、それぞれに別々の入札を行う必要があります。締切も入札方法も市場ごとに異なるため、実務上の負担は小さくありません。
さらに、市場が分かれていることで全体最適が成立しにくいという課題も指摘されてきました。調整力の募集量が埋まらない、ブロック入札で売り残りが発生する、必要以上の電源が起動してしまう、といった事象です。
同時市場では、発電事業者が自社電源の費用構造や運転制約を登録し、どの電源をkWhに充て、どの電源をΔkWとして確保するかという配分を、市場システム側が計算して決定します。事業者が市場間の振り分けを判断する必要がなくなり、系統全体のコストが最小になる組み合わせが選ばれる、という考え方です。
この仕組みは米国のPJMやCAISO、ERCOTなどですでに運用されており、日本でも電力広域的運営推進機関が海外事例の調査を継続しています。
同時市場の中核にあるのが、SCUCとSCEDという2段階の最適化計算です。どちらも「系統制約付き(Security Constrained)」という条件が付くのが特徴で、送電線の容量などの物理的な制約を織り込んだうえで答えを出します。
SCUC(Security Constrained Unit Commitment/系統制約付き起動停止計画)は、主に前日段階で「明日のどの時間帯に、どの発電機を起動しておくか」を決める計算です。
火力発電機には、起動に時間と燃料費がかかる、一度起動すると一定時間は停止できない、最低出力を下回る運転ができない、といった制約があります。SCUCはこうした制約と需要の見通しを突き合わせ、翌日1日分の電源の起動・停止パターンを、全体費用が最小になるように組み立てます。
SCED(Security Constrained Economic Dispatch/系統制約付き経済負荷配分)は、SCUCで起動が決まった電源に対して、実需給に近い時間帯で「いま何%の出力を出すか」を割り当てる計算です。短い周期で繰り返し実行され、直前の需要や再エネ出力の変化に追従します。
SCUCが「体制を組む」計算だとすれば、SCEDは「組んだ体制の中で配分を調整する」計算にあたります。この2つがセットで動くことで、kWhとΔkWの同時最適化が成立します。
市場側が電源の起動停止まで決めるには、各電源の費用構造が分かっている必要があります。そのため同時市場では、起動費・最低出力費用・限界費用カーブの3つを提示する三部構成入札(Three-Part Offer)が前提として議論されています。
検討会では、売れ残った自社電源を発電BGの費用負担で追加起動するセルフスケジュールの扱いや、相対契約における電源の経済差替といった論点も整理が進められてきました。
制度の検討は、経済産業省の「同時市場の在り方等に関する検討会」で進められています。2025年10月15日には第二次中間取りまとめが公表され、実現までの道筋が段階的に整理されました。
第二次中間取りまとめでは、2030年代前半の実現を見据えた5段階の工程が示されています。
| フェーズ | 内容 |
|---|---|
| 第1フェーズ | 市場制度の詳細設計 |
| 第2フェーズ | システム開発の要求定義・運営主体の検討 |
| 第3フェーズ | 導入の最終判断・システム開発 |
| 第4フェーズ | 運営準備 |
| 第5フェーズ | 市場開設 |
2026年6月29日の検討会では、第1フェーズにおける詳細業務設計の進め方が議論されており、制度の細部を詰める作業が続いています。変動性再エネ(VRE)の入札の扱いやFITインバランス特例制度との接続など、残された論点も少なくありません。
押さえておきたいのは、同時市場が確定事項ではないということです。工程表でも、第2フェーズでシステム開発の要求定義を行い、日本で実現可能と判断された場合に導入を最終決定するという組み立てになっています。
したがって現段階で有効なのは、確定していない仕様に合わせた作り込みを先回りで行うことではなく、どちらに転んでも活きる準備から着手することです。需要予測の精度やデータの整備は、同時市場が実現してもしなくても成果につながる領域にあたります。
制度の詳細は確定していませんが、議論されている方向性からは、業務の重心がどこに移るのかがある程度見えてきます。
最も大きい変化は、市場間の振り分けという判断が事業者の手を離れる点です。現在のように「この電源はスポットに出し、この電源は需給調整市場に残す」と考える作業は、市場システムの計算に置き換わっていきます。
その代わり、市場に提示する情報の正確さが結果を左右します。起動費や最低出力費用、限界費用をどう算定するかが、そのまま約定結果と収支に反映されるためです。感覚ではなく、根拠を持って数値を提示できる状態が求められます。
一方で、小売電気事業者にとって重要なのは、需要予測の役割がなくなるわけではないという点です。市場が最適化するのは、提出された需要の見通しに対する供給側の組み合わせです。自社の顧客がどれだけ電気を使うのかという見通しを作る作業は、引き続き事業者の側に残ります。
むしろ、計算の精緻さが増すほど、入力となる需要の確からしさが結果に効いてきます。需要予測の精度向上は、現行制度でも同時市場でも共通して価値を持つ取り組みだと言えます。
ここからは、制度が固まる前の現時点でも着手できる準備を整理します。いずれも同時市場が導入されなかった場合でも、日々の需給管理の改善につながる内容です。
まず着手したいのが、現状の予測精度を数値として押さえることです。MAPE(平均絶対パーセント誤差)などの指標で、時間帯別・季節別・需要家セグメント別に誤差を集計し、どこで外しているのかを特定します。
このとき見落としやすいのが、平均値では見えない外れ方です。気温が予報から大きくずれた日、連休の入り・明け、猛暑日や寒波といったイレギュラーな条件で誤差が膨らんでいないかを切り分けておくと、改善すべき箇所がはっきりします。
「おおむね合っている」という感覚のままでは、改善の効果も測れません。
需要実績、気象データ、顧客属性、過去の予測値と誤差。これらが担当者個人のPCやローカルフォルダに散在していると、制度が変わった際に対応の起点となるデータを集めるところから始めることになります。
データの保管場所を共有環境に集約し、誰が見ても同じデータにたどり着ける状態を作っておくことが、将来の制度対応のコストを下げます。
発電設備や相対契約を持つ事業者であれば、各電源の起動費・最低出力・起動所要時間・限界費用といった情報を、今のうちに一覧として整理しておく価値があります。三部構成入札が前提となる制度では、この情報の精度がそのまま収益に直結します。
電力業界は制度改正の頻度が高く、同時市場に限らず市場ルールは変わり続けます。現在使っている需給管理・需要予測の仕組みについて、入札ロジックや計画提出の様式が変わったときに、どの範囲まで改修で対応できるのかをベンダーに確認しておきましょう。
カスタマイズの範囲や改修の進め方は製品によって異なります。インプットする情報を後から追加・変更できるか、予測モデルを運用しながら更新していけるか、制度改正時にどこまでベンダー側で対応してもらえるか。システムを選定・見直しする際は、機能や精度だけでなく、こうした導入後に育てていける設計かどうかを比較項目に入れておくことをおすすめします。
同時市場の議論は、経済産業省の検討会ページで資料・議事録が公開されています。すべてを読み込む必要はありませんが、四半期に一度程度、取りまとめ資料の冒頭と工程表だけでも目を通しておくと、社内への情報共有がしやすくなります。
同時市場は、kWhとΔkWを一つの計算で同時に約定させ、SCUCで電源の起動停止を、SCEDで出力配分を決める仕組みです。2025年10月の第二次中間取りまとめで2030年代前半の実現に向けた5段階の工程が示され、現在は第1フェーズの詳細設計が進められています。
導入はまだ確定しておらず、今後の判断次第で工程が変わる可能性もあります。だからこそ、現時点で有効なのは確定前の仕様に合わせた作り込みではなく、どの制度になっても必要になる「需要予測の精度」と「データの整備」を先に固めておくことです。これらは同時市場を待たずに、日々のインバランス削減や調達コストの抑制という形で効果が表れます。
市場側の計算がどれだけ高度になっても、自社の需要がどれだけになるかという見通しは事業者が持ち込む情報です。予測の土台が整っていれば、制度が変わったときに対応すべき範囲は小さくて済みます。
まずは自社の予測誤差を数値で把握し、データの置き場所を整理するところから始めてみてください。そのうえで、制度変更への対応方針が明確で、自社の運用に合わせて育てていける需要予測システムを比較検討しておくことが、同時市場への実質的な備えになります。
電力需要予測システムは、さまざまな場面で活用されるものです。ここでは「小売電気事業者向け」「工場向け」「スマートハウス・スマートビル向け」と業種ごとにおすすめの電力需要予測システムを紹介しています。

電力売買を効果的に行える
電力業務特化型の電力需要予測システム。自動で再学習を行うAIモデルの高精度な予測により、電力売買の効果的なタイミングが図れる。
インバランスコストを削減
短時間での予測が可能なため、一日前入札当日の新鮮なデータを反映させた高精度の予測実施。より正確な予測でインバランスコストを効果的に削減可能。

自動でピークカットを実施
工場向け電力需要予測システムZEBLAで、設備の電力消費データを監視・分析。電力使用の無駄や異常を検知し、自動でピークカットが行える。
生産計画に影響しない節電
電力不足時は重要度の低い機器を間引き、さらに不足すれば発電機を稼働するため、生産計画に影響することなく電力平準化を図ることが可能。

効率的な再エネの需給管理
全国の気象観測網を活用した電力需要・発電量予測を提供。太陽光・風力発電の変動を精度高く把握可能なため、再生可能エネルギーの需給管理を調整できる。
電力不足のリスクを低減
気象による予測誤差を抑えることで、スマートハウス・ビルにおける電力不足のリスクを低減。また、自家消費・売電など余剰電力を適切なタイミングで活用可能になる。